何をするにも不器用で

今以て私はポンコツといはれながら

やっとの思ひで日常を過ごしてゐるが、

それとて常人から見れば酷く無様なのだらう。

ポンコツ故にか一番の極楽は

ただぼうっとしてゐる時間を何時間も過ごすときである。

そのときばかりはポンコツでなく自在に道具世界に対峙でき、

道具は手のやうに扱へる。

ぼうっとしながら何をしてゐるのかといふと

あるとき私は仏師の如く仏像を彫ってゐるのに気が付いた。

夏目漱石は『夢十夜』で

仏師は木を見てそこに埋まってゐる仏像を彫り出すといってゐたが、

そこはポンコツ、

私には木に仏像が埋まってゐるやうには全く見えず、

木を彫ることで次第に変容するそのことを愉しんでゐたのである。

どうやらポンコツの私は木偶の坊とはいい条、

次第に変容する木に夢中だったのである。

それは哀しい哉、ポンコツならではの悲哀でしかなく、

つまり、ポンコツからの変容を渇仰してゐる

私の願望の表れでしかなかったともいへる。

残酷なことをいへばポンコツは何処まで行ってもポンコツなのである。

それは私が私を已められないことと同じなのだ。

 

ポンコツは今日もポンコツで

心ではいつも啼いてゐる。

ポンコツを已められないポンコツは

それでも歯を食ひ縛り

なんとか日常を暮らしてゐる。

それを傍から見れば、

嘲笑の対象でしかなく、

実際、嗤はれるのではあるが、

しかし、ポンコツはさうして生きて行く外に術がないのだ。

積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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