雨の晩夏
異様に暑い酷暑の夏が
少しだけ背中を丸め
後退りしたかのやうに
秋を連れてくる秋雨前線が
南下を始め、
雨音と共に秋の予兆を運んできた。
地を這ふ風は
最早上昇する熱を持ち得ず
滝壺の冷風の如く横滑りするのみの爬行類に変化し、
シュルシュルと吾に巻き付く。
さうして吾は落涙す。
愛に恵まれてゐるとは言ひ難き吾は
ほんのり冷たいとはいへ、
秋風でも抱き付かれれば、
愛に飢ゑてゐた吾は
欲情し秋風を抱き締めるのであるが、
それは個体ではない風のこと、
するりと吾の腕から逃げ果せ
吾はまた、愛に逃げられたと落涙するのだ。
哀しき哉
吾が抱き締めやうとするものは
悉く吾の腕から逃げ果せ、
結局、愛に飢ゑた吾の欲情はすかさず憤怒へと豹変し、
吾、瞋恚で顔を赤らめ、
空を瞠目す。