石原吉郎に「位置」といふ大変有名な詩があるが、

石原吉郎の位置はSiberiaの大地での

絶えずソ連兵に銃口を向けられた中で育まれた

人間の位置といふものは蒼穹を肩で支え、

つまり、自分の位置は自分で宇宙を支へなければ

確保できぬといふもので、

その厳格凄惨な位置に堪え得た石原吉郎の凄みは

「位置」といふ詩一つでも闡明するが

果たしてそれを我が身に置き換へればどうなるかといへば、

それは明らかに弛緩したGumのやうに伸縮する蒼穹を

これまたなよなよした肩で背負ひ

猫背になりながら

足下ばかりを見ながら歩く

曖昧な位置のみが指定されるに違ひない。

 

然し乍ら、それでは済まぬ状況は簡単に突如として訪れるものだ。

それは銃口のあるなしの大きな違ひによるともいへ、

例へば吾が強盗に遭ひ、

銃口を向けられたなら、

果たして石原吉郎のやうな死の覚悟を持って

ソ連兵の銃口を見ながら

蒼穹を背負ふ覚悟があるかと問はれれば、

吾は

――ある!

と、名言出来るに違ひない。

それは吾もまた、銃口に漸近する

吾自身に責められ続けられる自虐の苦役に

半世紀もの間、曝されてゐるので、

石原吉郎の体験とは違った形ではあるが、

その凄惨な自虐の苦役の体験から

断念といふ狂気を学び取るしかなかったのだ。

 

吾の位置は約めていへば

大宇宙の中で断念した此処である。

それ以外いふに及ばず。

積 緋露雪

物書き。

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