小春日和
柔らかな陽射しが
宙返りをして
彼方此方に散らばりながら、
見事な着地をしては
全力疾走を始める。
さうして、やがては私の頬にも陽射しが届き、
陽射しは皆頬を蹴飛ばし熱を生じさせる。
この安寧の中、
私は夢魔に襲はれ、
微睡みへと沈む。
何分、いや、二、三時間経ったのだらう。
日は傾き柔らかだった陽射しは
更に羸弱して
宙返りすることさへままならず、
赤色の長周期の光のみが
百メートル走を走る調子でマラソンをし始める。
だが、光がバテるのも待たずに、
日輪は南西の空に沈み、
雲ばかりが極彩色に彩られ、
夕焼けが矢鱈に美しい。
そのときに、凪が終わったのを告げるやうに
優しい風が頬を撫で、
カルマン渦を巻いて行く。
この夕焼けの世界の美しさに騙されてはならないのか。
世界は常に私を真綿で首を絞めるやうに
私の居場所を抹消してゆく。
さうして私の屹立する場を失った私は
縊死するのみ。
気絶していた私が目覚めると、
夜が始まってをり、
私は黄泉の国にでも目覚めるのだらうか。
月は既に高く昇り、
薄ぼんやりと碧い光を投げ掛ける。
ここが死後の世界ならばと何度思ったことだらう。
失はれた私は
この月下の世界で重なる。
さうして私は立ち上がり、
再び、世迷ひ言に現を抜かしながら、
私が私を責める苛烈な呵責の中に身を落とす。