薄霧にぼんやりと月照る春の夜に、
哀しい風が吹きまする。
木木はカサカサと噎び泣き
昼間啼いてゐた鶯は
既に眠りについたのか、
沈黙したまま
風の吹き荒ぶ音ばかりがするのです。
吾が心はその哀しさに押し潰されて
おいおいと泣いてゐます。
吾が心の哀しさに理由何ぞはなく、
唯唯、哀しいのです。
ぢっと坐しても
眩暈がする吾は
哀しいながらもそれを楽しみ
ゆらゆらと世界は揺れるのです。
そもそも世界は揺れてゐるもので
それは世界が瞬く時を知らず
ずっと目を見開き
神に抗ふ憤怒に赤らみ
虚空に消ゆる憤怒の焔に
世界はその行く末を託してゐるのかもしれません。
吾をぐるりと取り巻く世界は吾を締め付けながら
その憤怒の一端を晴らし
吾は苦しさに顔面蒼白となり、
眩暈と共に矢鱈に息苦しいのです。
空間と相容れられない吾は
何時も息苦しいのです。
金魚の口と同じく
吾は何時も大口を開けてゼイゼイと呼吸をしてゐるのですが、
それが世界にはをかしいらしく、
眩暈のする吾は
金魚の色を纏ひ
口をパクパクと呼吸をするのです。

――ああ、哀しさが零れ落ちるとき、吾は眩暈でぶっ倒れます。
そのとき、世界は蔑みの目で吾を見下し
吾はといふと
畳の目の歪むのをぢっと見てゐるのです。
何が哀しいかといふと
吾が存在するのが夙に哀しいのです。

積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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