観念しても
目玉が眼窩からどろりと零れ落ち
地面を転がる吾が目玉に映る世界は
地獄絵何ぞの言葉では言ひ様のない惨憺たる様相を呈してゐたが、
それでも生へと向かふことは観念してきたおれは、
もう異形の姿で街を彷徨ふことしか出来なかった。
風狂の徒といつしか誰かがおれのことを指さし
大口を開けて嗤ってゐたが、
おれの目には其奴は既に死んでゐた。
観念して、さうして断念して異形の姿を晒し
地面を転がる目玉を引き摺りながら
人の世とも思へぬ此の世を
人間に会ふべく彷徨ってゐたが、
到頭、人間には会へなかった。