別離
哀しみはもう、埋葬したが、
それでも別離は誰であらうと、
納骨しても地面の蟻の行列の如く
次次と湧いては
昆虫の死骸に群がる
生の哀しみに似てゐる。
別離は癌でない限り
突然とやって来るが、
それ故に、余命宣告を受けられる癌は
死の準備が出来て羨ましくもあるけれど、
だからといって誰も死から逃れられぬことに
変はりはなく、
いつかは必ず、私が此の世と別離するときが訪れる。
疾うに死の準備は出来てゐるとはいへ
此の世との別離に一抹の哀しみがないわけではなく、
心残りは山ほどあるが、
それは瀝青の上に転がってゐる油蝉の骸の哀しみと
何にも変はらぬ。
私は油蝉の骸を目が悪いのでそれとは気付かずに
自転車のタイヤでぐしゃっと踏み潰してゐる筈で、
それはそれで油蝉の本望なのかとも思ふこの薄情な私は、
自分の死にもまた、薄情なのかもしれぬ。
最早何事も受容し、
また、断念する私は
体に毒と言はれる煙草を
今日も呑む。