どんなに疲弊してゐても

どんなに疲弊してゐようが、

歩きを停めてはならぬ。

ひと度歩きを停めると

己を囲繞する時空間は

毛むくじゃらの妖怪たちで犇めく亜時空間へと変質し、

己は其奴らに呑み込まれることになる。

さうなると己は最早己を維持することは不可能で、

やがて己も毛むくじゃらの妖怪に成り下がる。

それでは毛むくじゃらの妖怪とは何かといへば、

唯一、時空間から自由な存在で、

裏を返せば自分の居場所を見失った迷子の存在に過ぎず、

蟻地獄の如く時空間から零れ落ちる存在をぢっと待って

それを餌に生き存へてゐる亜存在なのだ。

つまり、生涯存在になれぬ哀しい亜存在。

 

だから、毛むくじゃらの妖怪はいつも殺気だって

共食ひすら厭はぬのだ。

血腥い亜時空間が囲繞する時空間は

地獄と地続きともいへる。

だから、存在するものは一所懸命に存続せねばならぬ。

地獄に堕ちるのは死んでからでも遅くはなく、

生きてゐる以上、存在から逃れられぬ。

ひと度存在から目を背けると

迷子になるのは時間の問題なのだ。

 

塀の前で少しでも停まると

塀から五万と毛むくじゃらの妖怪が現れて、

己は己の居場所を失ふ。

そんな危ふい状態にある存在するものは

それに気付かぬまま、

己を浪費しながら

下らぬ人生を終へてゆくのか。

道草するのはよいことで、

己の浪費とは違ひ、

生を豊かに色づける。

最も頂けないのは直線的なものである。

回り道をしなかったものの生は実に実りの少ないものと相場が決まってゐる。

 

どんなに疲弊してゐようが、

歩みを停めてはならぬ。

歩みを停めたものには地獄が手ぐすね引いて待ってゐる。