小説 祇園精舎の鐘の声 十八の篇
倉井大輔は文明の暴走を最早誰も止められぬ事に対しての忸怩たる思ひはあったが、コンピュータの論理が人間の論理を超えてしまった現状を嘆いてゐても始まらず、どうやってこの暴走する文明の驀進の中で、人間が人間の地位を保って人間といふものを或る意味では誇らしく――これは人間の堕落の始まりでもあるのであるが――日常を営む方策は何処かに潜んでゐないかと各家家に灯りが灯る門前町をふらりふらりと歩きながら考へてゐたのである。日常生活にも深く浸潤してゐるコンピュータによる文明システムは、誰もそれとは最早感度を失ってゐるが、コンピュータシステムの前では人間は下僕でしかないのである。徹底的にコンピュータシステムの前では人間の論理は通用せず、奴隷としてコンピュータシステムに従ふしかないのであった。それが倉井大輔には苦痛でしかなく、社会性の欠落してゐた倉井大輔は、社会の仕組みに絶対服従させられることには何時も悶悶とした思ひを抱かずにはをれず、
――ちぇっ。
と、舌打ちをしてから社会の論理に嫌嫌合はせるのである。
十八の篇終はり