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壊れ行く日常の中で吾は座して死を待つのみか

数多の殺戮が日常の中に巣くふ中で、

それに対して余りに無力な吾は

座して死を待つのみか。

然もなくば、

吾独りでもそんな日常に対して謀反を起こし

下らぬ死を以てしてそれに報ひるべきか。

然れどもそんな吾独りの死を以てしても

死神が悦びはするが、

悪霊に取り憑かれし為政者と流行病には

何の役にも立たぬ。

武器を持つものに対して素手で対峙する勇気もなく、

流行病に対しても為す術のない吾は

それだから尚のこと雨に打たれてぶるぶる震へる仔犬に等しく

疚しさばかりが募るのである。

ならば立ち上がれ、と威勢よくいふものもゐるが、

死神を目の前にして捨て身になれる生者は極少数で、

自分の国を問答無用に侵略されたものと比して

吾が置かれし状況を鑑み、

最も罪深き悪しき傍観者として戦況を凝視し、

流行病の通り過ぎつるのを待つのみが関の山である。

さりとて土足で悪霊に取り憑かれし為政者と流行病に

踏み躙られし吾が日常の中でのほほんと生ききるのは

忍びなく、

怒りに吾を忘れて戦火に飛び込むほどの

無鉄砲さも全く持ち合はせてゐない吾は、

吐き気がする日常に翻弄されながら

苛立つ吾を鎮める術すら知らぬことに吃驚しながらも

狂った世界の人身御供として

吾の身を捧げる覚悟すらもないことに

今更ながら痛打を受けつつ

日日壊れ行く世界と吾が心は

ぼんやりとした不安の中で自死した芥川龍之介の如く

自身が壊死する外ないのか。

この不感症は吾ながら戦死者と流行病に倒れし人人に対して失礼極まりないが、

どうあってもそれに対して道理が立たぬ世界と吾は

最早投げ槍に日常に身を置くのだ。

それが針の筵の上に座してゐるとしても。

哀しい哉、これが現実なのだ。

目覚めし時、吾独り生を噛み締める一時、

吾は現実に唾を吐く。

――ぺっ。

と。

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