アハイニアの書 五
五章
1:アハイニアの悲しみに沈みし声
虚無の上にて泣きをりし。
そして、フューゾンの「木」の周りにて、
孤独な夜に遠く
彼女の声は聞こえし、しかし、彼女は形なく、
しかし、彼女の涙は雲から
その「木」の周りに永劫に落ちるなり
2:そして、その声は叫びに変はるなり、嗚呼、ユリゼン! 愛!
暁の花! 吾は非―虚無の縁で泣きぬ、その深遠の幅はいかほどか
アハイニアと汝の間の!
3:吾は深遠の縁に横たはれり、
吾は上の暗黒の雲を見し、
吾は暗黒の森と氾濫を見し、
吾が目には荒涼とした光景が飛び込みし!
4:泣きながら吾は岩岩を乗り越え歩む
穴穴を乗り越え、そして、死の谷を通り抜け
何故汝はアハイニアを酷く嫌ふのか
汝の輝かし存在から吾を投げ込むべく
「孤独」の「世界」のへと
5:吾は彼の腕に触れられず、
彼の膝で啼くことも出来ず、聞けず
彼の声と弓の音を、彼の瞳は見えず
そして歓べす、彼の跫音を聞けず、そして
吾が心はその愛らしき音で高鳴るのだ!
吾はその場に口付け出来ず
即ち彼の輝かしき足が踏みつけしところ
しかし、吾は峨峨の上を彷徨ふ
疑ひやうのない必然性を以てして。
6:吾が黄金の宮は何処や
吾が象牙の寝台は何処や
吾が朝のときの歓びは何処や
歌を歌ひし、吾が永劫の息子は何処や
7:輝しきユリゼン吾が王よ目覚めるべし!
山の歓びを生じるべし。
永劫の谷に至福を齎すべし、
8:吾が王よ朝に目覚めるべし!
アハイニアの歓びを抱きしべし
彼の両手を広げし広き胸で、
柔らかき露を含みし雨雲から
彼の収穫の上に驟雨を降らせしまで。
9:彼が吾が幸福の魂を
永劫の歓びの息子に与へしとき、
彼が命の娘たちを
吾が愛の部屋に連れ行くとき、
10:吾が寝台に至福の赤子を見つけとき。
吾が部屋で胸の乳房で乳を含ませば
永劫の種子で満ちし
おお! 永劫の誕生はアハイニアの周りで歌ひし
彼らの歓びの甘美の交換において。
11:成熟に伴ひ膨脹し、そして、膨れに膨れ
吾が体臭で臭ひし風を伴って破裂す。
吾が熟した無花果と石榴の実実は
汝の足下で無邪気な喜びにある
おお、ユリゼン、喜び歌へよ、
12:さうして種子で満ちし汝の膝を伴ひ
また、巨大な焔に満ちし汝の手を伴ひ汝は
暁の雲から前へと歩きし
躍動せし歓びの乙女たちの上で
投げ込まれし人間の魂の上で
永劫の智の種子を
13:甘美な曙光を
晩にアハイニアが戻る汝の寺院へと投げ掛けし
水滴が誕生へ向け目覚め
吾が母親の歓びは、至福の眠りにありつつ
14:しかし、今、孤独のものが峨峨、そして、山山を越えて
汝の愛する胸から放り出されし、
残酷なる嫉妬! 自己恐怖!
自己破壊、どれほど喜べるか、
暗黒の鎖を新生し給へ
野獣の骨がばら撒かれしところ
寒寒と雪を冠した山の上
誕生からの骨骨が埋められしところ
彼らが光を見る前に。
完