ヘンリー六世 第一部 第一幕 第一場 二
ウィンチェスター司教
彼は王の中の王の聖なる王なり。
フランスの恐ろしい審判の日といっても
彼の一瞥ほど恐ろしくはならむまし。
軍勢の神の戦ひを彼は戦ひし、
協会で祈る人々をして彼は余りの繁栄を齎しぬ。
グロスター公爵
教会! それは何処か? 聖職者たちは祈ってはをらぬ、
彼の命の寿命はさうでなければこんなにも早く消えはしないなり、
汝らは誰もが軟弱な王子のみを好いていたなり、
書生の如き彼に汝らは気後れしてをるらむ。
ウィンチェスター司教
グロスター公、吾らが好いてゐことが何であれ、汝は「摂政」なり、
そして、王子と国に対してに命令する立場に見受けられる。
汝の夫人は高慢なりぬ、彼女は汝を畏れまし、
「神」若しくは聖職者の信仰心以上に。
グロスター公爵
それは信仰に値せぬ、なぜならそなたは肉を愛す、
そして、教会へと一年を通してそなたは一度たりとも行かぬ、
そなたの敵に対して祈ることを除いては。
ベッドフォード公爵
已め給へ、争ひを已め給へ、そして、精神を穏やかに休め給へ!
祭壇へ参らう――勅使たちは吾らに従へ――
金の代わりに吾らの武器を供へやう、
武器は使ひ物にならぬので、今や、つまり、ヘンリーは死の床なり――
後世の人々よ、惨めな歳月が待ってをり
母親は潤んだ目で赤子に乳を吸はせるとき、
吾らの島は塩味の涙の沼地を作るらむ、
そして、女性のみがその死を泣き叫ぶに任せるなり――
ヘンリー五世! 汝が霊に吾は祈りぬ、
この地に繁栄あれ、市民の口論からこの地を守り給へ!
天の害ある惑星どもと戦ひ給へ!
ずっとより栄光ある星を汝が魂が作るらむ
ジュリアス・シーザーよりも然もなくばずっとより輝かしくあれ――
伝令者登場
伝令者
誉れ高き諸卿、ご健勝に幸あれ!
悲しい知らせを私めはあなた様らにフランスから持って参りました
損害の、死亡者の、そして、敗北、
ギュイエンヌ、シャンパーニュ、ランス、ルーアン、オルレアン、
パリ、ジゾール、ポワティエ、全て敗北。
ベッドフォード公爵
お主、何をいふ、貴様! 死したヘンリーの亡骸の前で
静かに話せ、然もなくばそれらの偉大な街街の損失は
彼に彼の指導力を破裂させ、そして、死から生き返るらむ。
グロスター公爵
パリを失ひしか? ルーアンも降伏せしか?
もしヘンリーが再び生へ呼び戻されしたところで、
それらの知らせは彼をして再び亡霊にならせる因にならむ。
エクセター公爵
それらはどのやうにして失ひしか? どんな背信行為がありしか?