揺らめく御灯明に照らされて
和蝋燭の御灯明が
盧舎那仏を薄ぼんやりと闇から浮かび上がらせてゐる。
遍く宇宙を照らし出す盧舎那仏は
今は半分闇に没してゐながら
それでゐて柔和な顔付きで
何処を見でもなく
全宇宙を一瞥で見渡してゐるのだらう。
御灯明が闇から救うやうに盧舎那仏を此の世に存在してゐると
ぼんやりと闇の中に浮かび上がらせることで、
どれ程の人が救われるのか。
お寺の本殿に鎮座まします盧舎那仏は、
この和蝋燭の明かりの下で見るのが一番美しい。
西洋蝋燭よりも炎が大きく揺れる和蝋燭は
盧舎那仏を収めるこの本殿の空間を揺らめかせる。
その揺らめきは1/fゆらぎといって
人間も含めた生物にとって
最も心地よい揺らぎであるが、
その揺らぎで盧舎那仏の影が揺れる。
光背は最早光であることを忘れ、
盧舎那仏の影に溶け込み
盧舎那仏本体ばかりがゆらりゆらりと揺らめく。
この揺らめきにこそ多分、一つの真理は隠されてゐるのであらうが、
ここではそれを追ふことが憚れるほどに
均整が完璧に取られてゐる。
揺らめくことにこそ人間は覚醒させられ
新たな宇宙を垣間見る瞬間が訪れる。
宇宙は此方の成長具合により見え方が随分と違ふもので
それが此の世に存在するであらう真理へ
一歩一歩近づく秘訣に違ひない。
ゆらりゆらりと揺れる盧舎那仏は、
大昔から此の世界は揺れる波でできてゐると
悟ってゐたに違ひない。