今すぐにでも何ものかが出づる

不穏な気配に満ちた壁に

四方を囲まれ

緊張で張り詰めたその部屋に

独り端座する覚悟は

刎首ふんしゅされるか

或るひは

刎首するかのつば迫り合ひを

真剣で行ふ覚悟に似てゐる。

此の世に存在するといふことは

正しくさういふことなのだ。

然し乍ら、それを回避して

生き存へることのみの享楽に溺れ

刹那のみに己を置いて

過去と未来を捨て去る輩が

多過ぎる。

それを卑怯と呼ばずして

なんといへやうか。

真剣の切っ先は

それでもいつも誰の喉元にもあり、

享楽の果てに自死するものは

見えない真剣の切っ先で刎首されたに違ひない。

此の世に存在するとは

深くゆっくりと呼吸をしながら

肚を据ゑて

腰にいた真剣に利き手を掛けて

己を刎首しようとする

何ものかの気配との鬩ぎ合ひなのだ。

その気配は既に時空と呼ばれる

四次元多様体に先験的に埋め込まれてをり

自我の増長を制御するStopperなのだが、

自我といふものは

自己増殖をするものとして

欲望、若しくは渇仰するものであって、

時空に抗ふ嘗ての苦悶は忘却の彼方へ。

 

しかし、時空そのものに紊乱の気配を察するものは

時空に埋め込まれたその気配を刎首するべく対峙する。

積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪
Tags: 対峙する

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