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思念の彼方には

思念の彼方には

 

頭蓋内の闇を弄って

攪拌するとき

何やら蠢く奴が出現すると

思念といふ摑まへどころのないものが

陽炎のやうに瞼裡に貼り付き始める。

その向かふは瞼の薄い薄い膜により遮られ、

決して見えやしないのであるが、

それでも思念のクソ野郎を追ってゐると、

奴が

――にひひ。

と嗤ひ出すのだ。

それ故に頭に血が上った吾は、

奴をぶん殴り、

私憤を晴らすが、

胸奥には隙間風が吹いて

唯唯、虚しい時間を堪へねばならぬ。

それでも吾が内眼球は

思念の怪しい動きだけは追ってゐて

思念もまた、瞼のその先へと飛び立たうと

出口なき出口を探してゐるのである。

――Eureka!

何かを悟ったやうに思念は思はず声を上げ、

奴の手を引き思いっきり瞼裡に奴を投げつけて、

瞼がその痛みでほんのちょっとでも開けば

彼方へと行けると思ったのだらう、

しかし、如何せん奴は蒟蒻のやうに軟体だったので、

吾はちっとも痛くはないのだ。

すると思念は得意の念力で

奴をカチンカチンに凍らせると、

それを思いっきり吾が瞼裡に投げつけたのだ。

――痛!

と吾は虚を衝かれたもののやうに何にも出来ずに

瞼を思はず開けてしまった。

その間隙を縫って思念は吾から飛び出し、

あらぬ方へと飛び去った。

すると連凧のやうに

思念が数珠繋ぎとなって次から次へと吾から飛び出したのである。

吾はそれを呆然と眺める外なかったが、

量子もつれではないが、

飛び去った思念と吾は一心同体で、

思念が眺める光景は吾にも見え、

思念が考へ倦ねてゐることは

手に取るやうに解る。

さうして思念の彼方には漆黒の闇のみが拡がるばかりであった。

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