妖しい夜には
妖しい夜には
吾、十六夜の月が最も美しいと思ふが、
それは十六夜の月には妖しさが伴ふからだ。
やや影の部分があるかないかの際どい存在が
十六夜の月には現れ、
その影あるところが妖しさを醸し出す。
満月の地平線より昇り始めた赤銅色の月も妖しいが、
それは妖しさ満載で少しばかり下品に見える。
それに比べ、
楚楚としながらもやうやっと影の部分が解る十六夜の月は
奥床しさがこの上なく上品で
それゆゑに美しさが際立つのだ。
満月の偉容な存在感より
それよりも一歩退ひた控へめな十六夜の月にこそ
月の本質が隠されてゐるやうに思ふ。
それでは月の本質はと言へば
太陽光を全反射することなく、
夜の暗さを邪魔するどころか、
月の輝きが夜を夜として成立させる
絶妙至極な月の明るさが月の本質ではなからうか。
吾、十六夜の月の如く存在したくあり。
それは此の世に遠慮がちにちょこっと顔を出し、
さうして何事か日常を日常として生くる存在として
妖しい存在としてありたくあり。