暗鬱を抱へてしまったので真っ暗闇に逃げ込むと
真夜中の夜道を彷徨ひ歩いてみるが、
まだ昇らぬ月の光がない真っ暗闇の中、
吾は物陰の更に濃い闇の中へと逃げ込むやうに
己を闇に隠したのである。
吾の本質は闇を偏愛する捻くれ者に違ひないが、
何故闇を偏愛するのかといへば、
それは闇の包容力に身を委ねることで、
吾はどんな暗鬱を抱へていやうが、
闇のみは優しく迎へ入れてくれるからであった。
これが燈火の下ではさうは問屋が卸さず、
まるで光の光電効果を体験するかのやうに
光でチクチクと皮膚が痛み出し、
敢へて何ものも見えてしまふが故に
網膜もチクチクと痛み出し、
やがてはそれは酷い頭痛となって襲ひかかり、
それでなくとも暗鬱を抱へ込んでしまった身にとっては
唯、燈火の下にゐることが既に劫罰を受けるほどの苦悶でしかないのであった。
だから吾は燈火から逃げ出すやうに闇の夜道へと飛び出したのであるが、
闇は実にいいのである。
一際濃い闇の中で人心地がついた吾は
この暗鬱とのみ対峙すればいいので、
大分楽なのである。
其処で腰掛け、
吾は何時も不意に訪れるこの暗鬱の出所をあれこれと穿鑿するが
暗鬱はその出所を闡明せず、
否、闡明できずにゐるのであった。
暗鬱もまた、吾の本質なのかもしれぬと吾は暗鬱から逃げることなく、
唯唯暗鬱を受け容れるしかないのであるが、
それはそれでまた乙なもので、
真っ暗闇の中、暗鬱と格闘することなく、
全的に受け容れてしまのふことで、
暗鬱を抱へてしまった吾といふ存在を
吾は皮肉なことに少しだけ愛せるのであった。