彼はまんじりともせずに只管、眼前の闇を凝視す。
――何故か、《吾》が憤怒にあるのは!


さう自問せし彼は闇の《世界》を無性に握り潰したくて仕方がなかった。


――《世界》? 誰かに呉れちまえ!


《吾》ながら何故かをかしかったので、
思はず苦笑せし。


――かうして《吾》は滅んでゆくのか……。


彼はさう独り言ちて、
むんずと手を伸ばして
《世界》を握り潰せし。
そして、《世界》は憤怒の喚き声を発せし。


――何する《もの》ぞ。《世界》と呼ばれし《吾》は、お前なんぞに変へられてたまるか!


虚しき喚き声のみ残して《世界》は《存在》してしまった。


その時、《世界》は一言呻いたのだ。


――あっ、しまった。


かうして《世界》は《存在》を始めたのだ。
しかし、未だに《宇宙》は誕生せず。


後は「神の一撃」で、
《宇宙》が始まるのを待つのみ。


しかし、《宇宙》は産まれたがらず。


さうして《世界》は《宇宙》となって開闢せし。


再び、業の中に《世界》は堕ちし。
積 緋露雪

物書き。

Share
Published by
積 緋露雪

Recent Posts

闇を纏ひし吾

闇を纏ひし吾   集…

2日 ago

思念の彼方には

思念の彼方には   …

1週間 ago

恋文のやうに

恋文のやうに   何…

3週間 ago

幻夢

水鏡に満月が宿り、 しずやかな…

4週間 ago

人は麵麭(ぱん)のみに生くるに非ず

不意に労働とは何なのかといふA…

1か月 ago

綴織

最高の綴織に出合った感動は 豈…

1か月 ago