桜の花びらがはらはらと散るやうに
今日も命尽きた人人が五万とゐる。
それは至極自然な事で、
春の、或るひは生の宴の後の寂しさは
一陣の風と共に桜の散った花びらが渦巻く底へと沈み込む。
さうして地面の黒子が花びらの安楽の地となる。
はらはらさらさらと散った花びらは
そのこと自体に何やら大きな意味があるかのやうに
春の景色を陰鬱に一変させ、
今は亡き人たちの面影を甦らせる。
それに出くはす私は
きっと顔面蒼白で
自分が幽霊に変化したかのやうにして
それらの面影と抱き合ふ。
桜が散る中では生と死の境は消え失せ
禁忌を犯すに相応しい場へと浄化する。
中原中也が「サーカス」で空中ブランコを
――ゆあーん、ゆあゆあーん。
と表現したやうに
桜舞ひ散る其処は
人智を超えたゆあーんの往還が為されてゐて
生は死を、死は生を往還してゐるのだ。
さうでなければ、
舞ひ散る桜の美しさはこの世にあってはならぬ代物で、
桜が散りゆく滅びの美ほど切ない美しさは今生のものに思へぬ。
つまり、桜散るとは結界が破れて死が噴出する場なのだ。

ゆあーん、ゆあゆあーん。

積 緋露雪

物書き。

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積 緋露雪

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