蒼穹 今は亡き石原吉郎に捧ぐ 雲一つなく、澄明な薄藍色に染まった蒼穹をおれは 脱臼しちまった双肩で担ぐ苦悶に身悶えしながら、 隣に偶然居合はせた赤の他人に愚痴をこぼしては、 湾曲した蒼穹のその撓みの恐怖に打ち震へる。 シシュポスの如くその永劫に繰り返される業苦は、 しかし、おれが生きてゐる間は、それは誰にも代はれるものではなく、 おれは世界を支へてゐる幻想に酔ひながら、 何万屯もある蒼穹を背負ひ続ける。 何がさう決めたのかなんてどうでも良く、 おれのこの業苦は、先験的なものに違ひないと端から思ひ為しては ――ぐふっ。 と咳き込みながら、確かに隣に居合はせた筈の赤の他人に愚痴をこぼしてゐる。 蒼穹を背負ふおれの影は、地平線まで伸びてゐて、 おれも蒼穹に届くほどの背丈になったのかと 感慨深げに思ふこともなくはないのであるが、 しかし、そんなまやかしに騙されるおれではない。 確かに ――重い。 といった奴がゐて、 それは偶然おれの隣に居合はせた赤の他人の言である。 しかし、おれではないと思ひたかったのかも知れず、 また、おれは健忘症に既に罹ってゐたのかも知れぬ。 何とも便利なおれの意識状態ではあるが、 唯、蒼穹の眩い薄藍色に見とれ、惚けてゐたのは確かで、Read More蒼穹

