十六夜に追ひ込まれて

十六夜に追ひ込まれて 吸ひ込まれるやうに 女の裸体にむしゃぶりつきながらも、 心ここにあらずのおれがゐた。   それでも女の裸体から発せられる媚薬の匂ひに誘はれて、 男性器はおれの虚ろな心模様とは別に勃起しながら、 しっかりと女を悦ばせることには長けてゐる。   さうして何とも名状し難い虚しい性交を繰り返しながら、 男女の体液の匂ひが綯ひ交ぜになって 窓越しには最早満月にはなれない月が見える十六夜は更けてゆく。   女の裸体を見てしまふとどうしても抱かずにはゐられぬだらしがないおれは、 さうやって時間を潰しつつも、 既に夢魔にどん詰まりまで追ひ込まれてゐる強迫観念にも似たその感覚に対して 当てつけるやうにおれは夢魔に挑戦状を投げつけたのだ。 ――夢は既にその神通力を失って久しい。 と。 すると、夢魔は目の色を変へた。 ――だからどうした? さういふ奴こそ、夢の神通力を信望してゐるのだ! 図星だらう? ――夢魔は今や絶滅危惧種だぜ。 ――何を馬鹿なことを言ってゐる。瞼を持つ生物は少なくとも夢を見る。 ……。 ――う~ん。   と喘ぐ女に対しておれは、尚も腰を振り女の子宮を男性器で突き上げるのであったが、 女が性交に没入すればするほどにおれは反吐を吐きさうになるこの矛盾に、 苦笑ひを浮かべて、更に膣の奥まで子宮口に届くやうに男性器で突き上げるのだ。   怯えてゐるのか。 あの夢魔に対しておれは怯えてゐるといふのか。 へっ、と自嘲の嗤ひを浮かべては、 その悪夢を振り払ふやうに悶える女の恍惚の顔を見ながら   ――来て~え。   といふ女の言葉を待ってゐたやうに おれは更に強く男性器を膣奥へと突き上げ、 女が失神するまで待ってゐるのだ。 恍惚に失神する女ほど幸せなものはないに違ひない。 さうと知りながら、焦らしに焦らしておれは女が失神し時間が散逸する様を見届けたかったのだ。   成程、さうすることで、夢魔のことが忘れられると錯覚したくて、 おれは愛する女を抱いたに違ひなかった。   心ここにあらず故におれの射精は遅漏を極め、 何度も女は失神しては、 性器と腹部をびくびくと痙攣させながら、 それでもおれの腰使ひには反応するのだ。   しかし、腰を振る毎に、意識だけは、夢魔の方へと引き寄せられるおれがゐた。   夢魔よ、お前は今も尚、百年前には通じた神通力が今も通じるなんて思ってやしないだらう。 それを確かめたくておれはお前に挑戦状を投げつけたのだ。…
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2026年6月10日 0