滅亡に憧れる 正直に生きたければ、滅亡してしまふのが自然だらう。 自他の齟齬に悩むのは当然として、 その中で自我を通すのであれば、己が滅亡するの方に正統性がある。 尤も、それは有体にいへば自己欺瞞の何物でもない。 老齢な狡猾さがさういはしめたのか、 痩せ我慢の見栄に過ぎぬと知りつつも敢へていへば、 他に対しては自我と呼ばれる類ひは、全て滅亡するに限ると思ふ。 さうして自身の席を他に譲ることでもっと老獪極まりない山師が出現するかも知れぬ。 さうして羸弱な存在が生き残るよりも 老獪極まりない存在が生き残るのが筋かもしれぬが、 そんな人間ばかりの世はなんとも生きづらい世に違ひない。 しかし、何物をも生まれ出でしめ、 生けるもの全てを生かしめるこの慈悲深い世界に生きてゐるにもかかはらず 屈折したおれは、もしかするとそっと此の世から消えるのを或ひは待ち望んでゐるのかも知れぬ。 ――へっ、それは逃げ口上に過ぎぬぜ。お前の本音はただ生きたいだけだらう。さうと知ってゐて滅亡? お前の言は端から破綻してゐるぜ。 と、嘲笑ふおれは、 ぢっと滅亡といふ言葉を噛み締めながらも、 喉から手が出るほどに生に縋りたいのか。 しかし、病気により滅亡することは全的に受け容れる覚悟は既にできてゐる。 おれも既に病死することを考へる齢に達したのだ。 それだけ生き延びてきた報ひは必ずある筈と覚悟の上に、 おれの危ふき生の有様は、 それでも沈思黙考しながら藻掻き苦しみ、Read More滅亡に憧れる

