撲殺 二 更に一つのものが有無を言はせずに撲殺されたのだった。 なにゆゑにそれは撲殺されねばならなかったのか、 何ものもその理由を知らず、 さうして、それもまた、撲殺されたのだった。 それは、既に人たる事を已めて、 物になりたく 只管に自虐の渦に敢へて吾を呑み込ませてみたのだが、 何とした事か、それは人たる事を已められず、 人である恥辱をぢっと噛み締めてゐたのだ。 ――人である事は恥辱かね。 と、それには数多の愚問が投げかけられたが、 はっきりと言へる事は、 人は人である事で既に恥辱なのだ。 ――馬鹿を言へ。 何ものも自己である事を已められぬといふギリシャ悲劇の主人公のやうに 既に定められた悲劇の運命を実直に生きねばならぬとしたならば、 誰がこの生を生きられやようか ――嗤はないで呉れないか。 己は悲劇の主人公とはいっちゃゐないぜ。 運命を、苟(いやしく)も吾は知り得ぬのであれば、 さて、そもそも運命とは何ぞや。 それ以前に運命は存在するのかね。 Read More撲殺 二

