棚引く雲 蒼穹の下、 おれは変化して已まぬ雲を眺め、 時にその雲の影に蔽はれながら、 雲が棚引くその雲の影と蒼穹の対比に 得も言へぬ美しさを見出したのか。 おれはこの他者がゐて、歴史とがある此の世に生まれた不思議に感謝しながら、 もしかしたならば、おれはおれのみしか存在しない、 歴史もない世界に生まれ出る可能性があった筈であるが、 それを回避して此の他者がゐて、歴史がある此の世界に生まれ出たことに それだけでおれは幸せなのかも知れぬ。 さう思はずして、此の痛苦しかない世の中で、 何に縋って生きてゆけると言ふのか。 何時も嘆くことばかりをしながら、 それでゐて、己が生きてゐる事に胡座を舁くおれは、 何にも解っちゃゐなかったのだ。 雲間から陽が射し、影が作るその美は 此の世界が鮮烈な印象を各人に残しては、 己の存在に思ひ馳せるきっかけばかりをおれに見せる。 此の美しい世界に生まれ出たことの不思議は解らずとも、 それを存分に堪能することは出来てしまふ此の世の優しさが、 おれにとっては苦痛でしかなかった。 慈悲深い此の世の有様は、 おれを冗長にさせて、Read More棚引く雲

