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Tag: 薄明の幻影

薄明の幻影

薄明の幻影   うっすらと雲間から顔を出した満月の赤赤とした相貌にどきりとしつつ、 この宵闇へと真っ直ぐに突き進む薄明の時間にこそ、 俺の欣求した世界が寝転がってゐるかもしれぬ。   終日のたりのたりかなと蕪村は詠んだが、 この薄明の時間にこそにのたりのたりと移ろひゆく時間の尻尾が見えるのだ。   黒尽くめの衣装に身を包み虚構の中での幻影の華を具現化しようと のたうち回って現実を優美に食し最期まで艶やかだった女の歌ひ手は 別離の歌を残して此の世を去ったが、 彼女はこの薄明の時間が最も好きだったのかもしれず、 それを聞かず仕舞ひで先に逝かれてしまったの事は無念である。 それでもこの赤赤とした満月にも似た彼女の艶やかさは、 俺の五蘊場では今も尚、存在する。   プルーストは『失われた時を求めて』で、 時間の多相性を浮き彫りにし、 リルケは『マルテの手記』で、 哀切に満ちた時間ののっぺりとした相貌に出会(でくは)してゐる。   ところが、俺は時間の無限の相貌に面食らひ 今も尚、それに対して収拾が付かぬまま、 時間を今のところひっ捕まへる事はせずに 抛っておいてゐるのであったが、 しかし、時間の方がそれに焦れて、 俺にちょっかいを出しては 俺を弄び出したのだ。  Read More薄明の幻影

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