陰翳 夕闇も深まる時、 森羅万象は一斉に陰翳に色めき立つ。 ざわざわとひそひそ話を始めるものたちは、 吾が存在により生じる陰翳に、 己の己に対するずれを確認しながら、 自分の居場所から離れてゆく。 何て心地よい時か。 俺が俺から離れる時に生じる俺の陰翳に 俺は快哉を送るのだ。 何故って、 俺が俺からずれると言ふ得も言はれぬ感覚は 全て陰翳として可視化され、 また、その陰翳には俺の異形が犇めき合ふのだ。 昼間は影を潜めてゐた異形のものたちは、 世界に陰翳が生じる此の夕闇深き時に、 その重たい頭を擡げ、 森羅万象に生じる陰翳に水を得た魚のやうに 自在に動き回り始める。 その時こそ、俺は俺から一時遁れる。 此の至福の時に、俺は安寧の声を上げて、 しみじみと俺を振り払ひ、 俺から遁れた俺を抛っておくのだ。 そして、俺が抜けた俺の抜け殻は、 最早俺である必然はなくなり、Read More陰翳

