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悲歌

ちっとも哀しくないのに
頬を流れる涙は塩辛くて、
切なさばかりが際立つ。


何故泣いてゐるのか
さっぱり心当たりはないのであるが、
さうしてゐても夕日は沈んでゆく。
たゆたゆと夕日は沈んでゆくのだ。


その景色は唯唯美しく、嗚呼、と声を上げるほどに美しい。
ぽっかりと浮かんでゐる雲は、
赤外線によって茜色に染められ、
たゆたゆと流れゆく。


何がそんなに哀しいのか、
頬を流れる涙は塩辛くて、
おれをたゆたゆと流すのだ。


おれは雲と一緒にたゆたゆと何処へとも知れずに流れゆく。
流されちまったおれはどうしてとっても哀しいのか。
風来坊を気取ってゐたおれは、
たゆたゆと流れるおれに執着する筈もなく、
流されるままであって欲しい筈だが、
哀しいのだ。
何てこった。
この哀しさはおれの奥底に何かが触れちまった証左に違ひない。
それはこのたゆたゆと沈みゆく夕日かな。
自然はそもそも哀しいのかも知れぬ。
彼方此方で哀しみの涙と嗚咽が満ち溢れてゐるやうに
この風情は荘厳なのだ。


ほら、また泣き出しちまった。
何がそんなに哀しいのかな。

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