浮沈 例へば意識といふものを氷山の如きものとして喩へるのは、 完全に間違ってゐるに違ひない。 氷山の水面の上に出てゐる二割ほどのものが意識で、 水面下にある八割ほどのものが無意識といふ喩へは、 完全には破綻 […]
果たして時は失せるものなのか 絶えず現在に留め置かれる現存在は、 果たして絶えず現在といふ時を失って、 全てが過去のものへと変節するといふ先入見から脱出できるのであらうか。 さう、過ぎしき過去といふ時間認識 […]
傷痕 何時火傷したのだらうか。 目覚めてみると右手に大きな水ぶくれをした傷痕があったのだ。 おれはよくパイプ煙草を持ちながら寝てしまふ愚行を繰り返してゐるのだが、 此の傷に全く気づかずに寝てゐたことから、 […]
土砂降りの中 何をも押し流さうとしてゐるかのやうに 今日も土砂降りの雨が降ってゐる。 今はまだ出水にならぬ程度だが、 やがて野分けがやってきて、 根こそぎ吹き払ふに違ひない。 屋根に当たる雨粒 […]
ふわっと浮く 余りに草臥れた時、 意識は、己がふわっと浮く感覚を察知する。 その時、意識は自由落下してゐて、 意識の重さを見失ってゐるに違ひない。 ――何? 意識に重さがあると? ――当然だらう。それは脳に […]
熱風の中で 頭がくらくらするほどの熱風に塗れながら、 おれは灼熱の中、歩を進める。 何故故にこんな日に歩かなければならないのか、 理由はなく、 唯、おれは、熱風に塗れることで現はれるへとへとに草臥れたおれを […]
籠もる人 そのものは独りであることに耽溺し、 吾といふ玩具を見つけてしまった。 そのものにとって吾は弄ぶものであって、 Fractal(フラクタル)なものとは全く予想出来ず、 そのものにとって吾は吾と分離し […]
棚引く雲 蒼穹の下、 おれは変化して已まぬ雲を眺め、 時にその雲の影に蔽はれながら、 雲が棚引くその雲の影と蒼穹の対比に 得も言へぬ美しさを見出したのか。 おれはこの他者がゐて、歴史とがある此 […]
己が哀れむのを誰ぞ知るや 既に此の世に存在してしまふ事で、 その存在は既に哀しいのだ。 それはどんな存在でも暗黙裡に承知してゐる事で、 今更言挙げする必要もないのであるが、 しかし、その愚行を敢へて行ふ吾は […]
譫妄の中で 混濁する意識が辛うじて発した ――おれ。 といふ言葉は、果たして譫妄状態にあるおれのことをどれほど自覚した上で、 発せられたのであらうか。 そもそも意識が混濁することなく、 闡明する中での覚醒し […]